「中途半端な気持ちで続けてはいけない、と思った」
――美容師として働いていた時期があるそうですね。
「はい。小さい頃から親戚に美容師がいて、職業としていちばん分かりやすかったのが美容師だったんです。親には『看護師になれ』って言われたんですけど、あまのじゃくなので、そう言われると余計に『美容師になるんだ』って。専門学校を出て、新潟のサロンに就職しました」
――それを1年で辞めています。何があったのですか。
「まず、不器用だったんですよ。パーマもカラーも本当に繊細な技術ですし、国家試験のワインディング(ロッドに髪を巻きつけるパーマの技術)も泣きながら練習していたくらいで。現場に出て、ストイックに技術を磨き続ける先輩たちの姿を間近で見たときに、『自分は技術を極める職人・技術者タイプではなかったのかもしれない』と痛感したんです。憧れだけで飛び込んでしまい、プロとして現場に立ち続ける覚悟が足りていませんでした」
――辞めることに、迷いはなかったのですか。
「悔しさはもちろんありました。ただ、真剣にお客様や髪に向き合っている周りの美容師さんたちを見るほど、中途半端な気持ちで続けてはいけないと思ったんです。高校が商業科で簿記などの資格を取っていたこともあり、一度自分自身の適性を見つめ直そうと決断し、1年という区切りをつけて別の道を探すことにしました」
「生活の8割は仕事の時間。だったら、もっと打ち込みたい」
――そこから事務職で5年働いています。当時はどんな日々でしたか。
「知り合いのつてで入って、落ち着いた環境でコツコツ働いていました。仕事とプライベートのバランスは取りやすくて、プライベートはすごく充実していたんです。ただ、働き方としては、どこか物足りなさも感じていて」
――転職を考えたきっかけは、何だったのですか。
「25、6歳になった頃、一緒に飲みに行く友達に、仕事をバリバリやってる人が多かったんです。その話を聞いていると、『このまま同じルーティンを続けるよりも、もっと新しいことに挑戦してみたい』と思うようになって。よく考えたら、生活の8割って仕事の時間で埋まってるじゃないですか。だったらその時間を、もっと夢中になれることに使いたい。もっと仕事に打ち込んでみたい、って思ったんです」
――次の仕事は営業、と決めていたのですか。
「そうですね。自分で考えて動いて、その結果が数字や相手の反応として直接返ってくる仕事に挑戦してみたかったんです。ただ、ゴリゴリの新規開拓じゃなくて、担当のお客様のところを定期的に回るルート営業の方が合ってるって、人材業界にいた友達に言われて。確かにそうかも、と」
――その中で、なぜ美容業界を選んだのでしょうか。
「『興味がないものは、きっと売れない』と思ったんです。だから、いちばん想像がつく業界を選びました。美容室で働いていたから、サロンさんの困りごとが肌感覚で分かる。第一志望がタチカワで、無事に採用されました。他業種から来た人は『パーマ液に1剤と2剤がある』ってところから覚えるんですけど、私はそこが最初から分かる。何より、アシスタントの大変さや現場の厳しさをわずかでも経験したからこそ、サロンさんの日々の努力に心から敬意を持てるし、困りごとにも親身になれる。技術者としては続かなかったけれど、その経験があったからこそ今こうして力になりたいと思える。あの時の経験が、むしろ今の武器になっています」
「短い訪問も、じっくり相談も。商品を売るだけの仕事ではない」
――今の仕事について教えてください。
「担当している約80店舗のサロンさんを、毎週回っています。新商品を紹介して、困りごとがあれば聞いて、助けられることがあれば助ける。ご挨拶や情報提供を中心とした短い訪問もあれば、ミーティングや相談で1時間以上じっくり滞在するサロンさんもあって、目的に応じてメリハリをつけています」
――サロンとは、商品の話以外にどんな話をするのですか。
「サロンさんによって全然違うんですよ。『最近こういう商品ない?』というサロンさんもあれば、『今後、客単価を上げていきたいんだよね』って経営の相談をしてくるサロンさんもある。数字で悩んでいるサロンさんには、社内の経営相談の担当者をつなぐ。商品の使い方に悩んでいたら、メーカーさんに連絡して一番いい方法を持っていく。私たちは、真ん中の『つなぎ役』なんです」
――印象的なサロンとのエピソードはありますか。
「月に1回、店内ミーティングに参加させてもらっているサロンさんがあります。今月のイベントは何をするか、お客様にどの商品をどう提案するか、アシスタントの子たちの目標と反省——そこに私も入って、一緒に意見を言うんです。求人に困っていれば社内のマーケティング部を呼んで『こうアプローチしましょう』とか、年間の売上を見て『来年はここを気をつけましょう』とか。商品を売るだけじゃない仕事の思考を、経営者の隣で見られるのが面白いんですよ」
――やりがいを感じるのは、どんな瞬間ですか。
「自分が携わったサロンさんの売上が上がって、それが自分の数字にも返ってくる瞬間ですね。毎日日報で数字が出るので、先月より何%上がった、下がったを見て、『今月はもっと頑張らなきゃな』とか。負けず嫌いなので。もちろんお客様のためが前提ですけど、自分の数字への意識もゼロじゃないです」
「あの時の経験が、むしろ今の武器になっています」と話す
「サロンごとの求められ方に合わせて、自分の裁量で柔軟に提案を組み立てられる」
――未経験に近いスタートだったと思います。最初はどうやって覚えていったのですか。
「最初の2ヶ月は研修期間で、主要メーカーの勉強会を集中的に受けて、先輩営業との同行があって、引き継ぐ先のサロンさんを1ヶ月回ってデビュー、という流れでした。正直、最初は覚えきれないまま出てました。サロンさんから質問されたことを持ち帰って、夜に先輩に『今日これを聞かれたんですけど、何ですか?』って聞いて、次の週に答えを持っていく。その繰り返しです。慣れない1年目は、営業から戻って翌週の準備をしていると、夜8時頃までかかる日もありました。仕事を覚えて要領をつかんでからは、自分でスケジュールをコントロールできるようになって、メリハリをつけて働けています。1年目は大変でしたけど、覚えることが次々あって、毎日やることが尽きない。望んでいた『打ち込める毎日』が来たわけで、それがそもそも楽しかったんです。今でも、預かった宿題の答えに時間がかかって『すみません、来週持ってきます!』になることがあるんですけど、『いいよいいよ』って笑ってくれる。先輩たちもメーカーさんもお客さんも、みんな優しくて、『分かりません』って正直に言える環境なんです」
――働き方は、どのくらい自分で決められるのですか。
「ほぼ全部、自分の裁量です。1年目は『とにかく全店舗を毎週回る』って決めて走り切りました。1年通うと、サロンさんごとの求められ方が見えてくるんです。毎週顔を出して最新の情報を届けてほしいサロンさんもあれば、月に一度じっくり相談したいサロンさんもある。だから2年目からは、それぞれのサロンさんに合わせて訪問の仕方を自分で設計して、メーカーのキャンペーンの時期には提案にも力を入れる。そのペース配分も含めて、自分の裁量で主体的に組み立てられるのが楽しいですね」
――営業約20人の中で、女性は金井さんおひとりだと伺いました。働く環境はどうですか。
「入社してからずっと、営業では私が唯一の女性です。それで困ったことは特にありません。産休・育休の制度も整っていて、最近は男性で育休を取った先輩営業もいます。タチカワの営業は個性が強くて、型にはまっていない人ばかりなんです。商品よりもまず話をしに行くタイプの営業もいて、それがその人の魅力でサロンさんに好かれていたりする。価格の安さではなく、最後は『この人から買いたい』で選ばれる会社なので、人の個性が武器になります。これから女性の営業がもっと増えたらうれしいですね」
担当サロンとの日々について。「サロンごとの求められ方に合わせて柔軟に提案を組み立てられる」
「『美容が好き』『おしゃれが好き』だけでも、全然いいと思います」
――どんな人がこの仕事に向いていると思いますか。
「この仕事、自分が主役じゃないんです。主役はサロンさん。相手のことをどれだけ考えられるか。あとは、この業界、本当に毎週のように新商品が出るんですよ。新しい色のカラー剤、新処方のパーマ剤やシャンプー、ドライヤーみたいな美容機器まで。トレンドも動き続けていて、たとえば最近だと、クリームで巻くメンズパーマが流行ったり。パーマひとつとっても、薬剤も技術もずっと進化しているんです。だから、新しいことを覚えるのが苦じゃない人、人に『いいのあるよ』って紹介するのが好きな人が向いています。美容の知識は、入ってからで全然大丈夫。むしろ畑違いから来てる人の方が多いくらいだし、経営が分からなくても、マーケティング部とか頼れるメーカーさんとか、使えるツールが社内に揃ってる。だから『美容が好き』『おしゃれが好き』だけでも、全然いいと思います。営業はサンプルももらえるので、新商品をいち早く試して『これ良かったですよ』って自分の言葉で話せる。おしゃれが好きな人には、この速さ自体がたまらないと思いますよ」

