
「点」で終わらせないコミュニティを
現在、新潟大学経済科学部に在籍しながら、学生コミュニティ「次世代BASE」を創設し、副代表を務める齋藤さん。彼は、学生が社会に出る前に「仲間・情報・地域」に触れ、活動が社会的な価値として循環する仕組みづくりに奔走しています。一見、行動力にあふれたリーダーに見える彼ですが、その原動力の裏には、受験の失敗、体調不良による療養生活、そして「料理」を通じた再生という、壮絶な原体験がありました。なぜ彼は「食」と「人」にこだわり、組織を持続させることに情熱を注ぐのか。その半生と未来への展望に迫ります。
齋藤(さいとう)新潟大学経済科学部3年生。新潟県新潟市出身。高校卒業後、浪人時代に体調を崩し療養生活を送るが、料理を通じて回復。その後、調理師専門学校を経て新潟大学へ進学する。現在は、週末に料理人として厨房に立ちながら、自身の経験を元に立ち上げた学生団体「次世代BASE」にて、食のプロジェクト「こめくしょん」やAIを活用したシラバス検索システム(CRシステム)の開発など、多岐にわたる価値創造活動を行っている。
体調を崩す中、料理だけはできた
新潟県新潟市、稲作が盛んな田園地帯で生まれ育ちました。一人っ子で兄弟に憧れみたいなものがあって、幼い頃から「仮想ライバル」を作って、何かに取り組むことが多かったです。友達が習字を始めたら負けたくなくて始めたり、泳げないのが悔しくて水泳を習ったり。小・中学校では学級委員を務めました。どうせやるなら、自分もみんなも楽しいことをやりたいと思っていましたね。また、「人がやりたがらない面倒なことにこそ価値がある」ということをうっすら感じていました。
地元で中学、高校と通い、卒業後は浪人しました。理系で、将来はAIなどの分野を学びたいと考えていましたね。ただ、浪人を決めて予備校に通い始めたものの、受験勉強がなかなかうまくいかず、プレッシャーで体調を崩してしまいました。ある日、家の階段から落ちて怪我をしたことをきっかけに、受験勉強もストップせざるを得なくなりました。
自宅で療養する日々を送る中、一人で過ごす時間がとにかく長かったですね。でも、孤独な時間のおかげで、不思議と自分を客観的に見ることができました。確かに進学校からの大学進学という「既定のレール」からは外れてしまった。でも、今の時代、こういう『クセ』のある経験も、むしろ個性になるんじゃないか。そう思えた時「元気になったらあれをやりたい」と未来を妄想する時間が心の支えになりました。
体調には波がありましたが、調子が良い時はキッチンに立って家族に料理を作りました。昔から料理が好きで、母の手料理で育ったこともあり、家族に振る舞うのが楽しみでした。「美味しい」と言ってもらえると、自分が社会の役に立っているような感覚になれましたし、料理をしている間だけは無心になれたんです。
そうして少しずつ回復していく中で、料理への興味が強くなって、将来飲食店をやりたいという思いも芽生えて、近所の農家レストランに話にいって、仕込みや料理などに携わらせてもらえるようになりました。
もう一つ、私を外の世界へ連れ出してくれたのはボクシングでした。いとこがボクシングジムをやっていて、心身ともに弱っていた私を「嘘でもいいから来い」と強引にジムへ誘い出してくれました。最初はしんどかったですが、無心に体を動かし、人と関わる中でエネルギーも湧いてきました。
1年半ほど経ち体調もだいぶ回復してきたので、料理の専門学校に通うことに決めました。
料理だけではない、食で価値創造したい
専門学校に入学してからは、「何かをやりたい」という欲求が爆発しました。学校の授業では調理を学びますが、基本的には一つの料理を作るのは1回。でも、プロになるなら100回作って体に染み込ませないといけません。すべてのジャンルでもっと回数をこなしたいと思い、最大で4つの飲食店を掛け持ちしました。半年ほど無我夢中で働き、最終的にはフランス料理と居酒屋の2つに絞って腕を磨きました。
また、夏休みには「1ヶ月休みがあるなら、ハンバーガー屋をやってみたい」と思い立ちました。とはいえ、店舗を借りる資金もノウハウもありません。そこで、「やり方を知っている人に会おう」と起業家コミュニティの門を叩きました。そこで、佐渡島を横断しながら食を提供する「キャラバンイベント」を計画している人と出会いました。「それなら一緒に出店しようよ!」と、チームで参加することになりました。
仲間と試食を重ねてメニューを開発し、佐渡の各地を回って販売する。自分で考え、体を動かし、お客さんに直接届ける。そのプロセスがとにかく楽しくて、心の底から「解放された」感覚がありました。
イベントの後、次は何をしようかと考える中で、あらためて自分がやりたいことを振り返る時間にもなりました。料理人の先輩たちは、一つの技術を極める「職人」です。本当にかっこいい。でも、自分はそこを目指したいのか?佐渡での経験を振り返ると、私がやりたいのは「料理そのもの」を作ることよりも、食を通じて人が集まる場や仕組み、つまり「価値そのものを創造すること」だと気づいたのです。
ただ「次世代BASE」は、あくまで学生のためのコミュニティであり、活動の主語は「学生」です。これだと、どうしても内輪の盛り上がりで終わってしまいがちで、社会的なインパクトに欠ける。活動を持続させ、本当の意味で社会と接続させるには、主語を「学生」から「社会」に変えなければなりません。「学生がやりたいからやる」ではなく、「社会が必要としているからやる」そうやって社会的な価値を持たせなければ、お金も人も循環しない。